尊厳死宣言公正証書(リビング・ウイル) — 延命措置についての意思を残しておく —
遺言のご相談をお受けしていると、「最期は延命治療をせずに自然にまかせたい」というお気持ちを話される方がいらっしゃいます。
ただ、その意思は遺言書に書いても実現できません。
遺言は死後の財産の分け方を定めるもので、効力が生じるのも亡くなった後だからです。
終末期の医療についての意思は、別の書面で残しておく必要があります。それが尊厳死宣言です。
■ 尊厳死宣言とは
回復の見込みがなく死期が迫った状態になり、自分で意思を伝えられなくなったときに備えて、延命措置を差し控える、または中止してほしいという意思をあらかじめ書面で表明しておくものです。
リビング・ウイルと呼ばれることもあります。
内容は人によって異なります。一切の延命措置を望まないという方もいれば、苦痛を和らげる処置は十分に行ってほしいと書き添える方、特定の処置だけを挙げる方もいます。
ご自身の価値観を言葉にしておく作業そのものに意味があります。
■ 公正証書にすると何が違うのか
尊厳死宣言は私文書でも作れますが、公証役場で公正証書にする方法もあります。
日本公証人連合会の説明によれば、尊厳死宣言公正証書は「事実実験公正証書」の一種として扱われています。(参考:https://www.koshonin.gr.jp/notary/ow08 )
公証人が、本人が延命措置を望まない旨を宣言するのを聴取するという事実実験を行い、その結果を公正証書にするという構成です。
公証人は、「本人が、自分の判断で、確かにこう述べた」という事実を公的に記録します。
つまり、公正証書で尊厳死宣言を作成することは、後になってご家族の間で「本当に本人の意思だったのか」「そのときすでに判断能力がなかったのではないか」といった疑問が生じにくくなる、という点に意義があります。
■ 法的な強制力はありません
ここは正確にお伝えしておきたい部分です。
日本には尊厳死について定めた法律がなく、宣言書があるからといって医師がそれに従う法的義務を負うわけではありません。
日本公証人連合会も、「医療現場で必ず従わなければならないとまではいまだ考えられていない」、と説明しています。
一方で、日本尊厳死協会の統計では、宣言書を示された医師の9割以上が尊厳死を容認しているとされています。
医師に何かを強制する文書ではなく、ご家族と医療者が難しい判断を迫られたときの拠り所になる文書、と理解するのが実態に近いと思います。
なお、延命措置を差し控えたり中止したりする尊厳死と、薬物の投与などによって死期を早める積極的安楽死は、まったく別のものです。後者は日本では認められていません。
■ 後見人も家族も、代わりに決めることはできない
成年後見人や任意後見人には、延命措置をどうするかという判断はできないとされています。
つまり、ご本人以外に「決められる人」は制度上いません。
だからこそ、判断能力があるうちにご自身の意思を残しておくことの意味が大きいのです。
■ 書いて終わりにしない
厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」は、平成30年3月の改訂で、本人の意思は変化し得るため日頃から繰り返し話し合うこと、信頼できる意思推定者をあらかじめ決めておくこと、話し合った内容を文書にまとめて関係者で共有することの重要性を示しました。(参考:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_02783.html )
いわゆるアドバンス・ケア・プランニング(人生会議、ACP)の考え方です。
尊厳死宣言は、この話し合いの出発点であり、その記録でもあります。
作成したらご家族やかかりつけの医師に写しを渡し、どこに保管しているかを伝えておいてください。
お気持ちが変われば、いつでも撤回し、書き直すことができます。
■ 任意後見・遺言と合わせて考えるのもおすすめ
任意後見契約は判断能力が低下した後の生活と財産、尊厳死宣言は終末期の医療、遺言は亡くなった後の財産。この3つを揃えると、これから先の時間軸がひととおりつながります。
日吉司法書士事務所では、尊厳死宣言公正証書の原案作成から公証役場との調整、作成完了まで、一貫して承っています。ご相談は無料ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。
遺言書作成、生前贈与、家族信託、成年後見、死後事務委任契約などの生前対策・終活から、不動産の名義変更(相続登記)、預貯金・株式・保険等の相続手続き、相続放棄などの相続発生後の手続きまで。
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