特殊詐欺から親の財産を守る——家族信託という選択肢
警察庁の発表によれば、令和7年中の特殊詐欺の認知件数は27,832件、被害額は1,423億円にのぼりました。
被害額は前年から約2倍に増えており、既遂1件あたりの平均被害額は523.6万円です。
認知件数では30代の被害が最も多い一方、被害額でみると70代が最多で、次いで60代。つまり、高齢の方ほど1件あたりの被害が大きくなる傾向がはっきり出ています。
令和7年から統計が取られるようになった「ニセ警察詐欺」は、それだけで10,859件、被害額998.7億円。オレオレ詐欺全体の約75%を占めています。
「ニセ警察詐欺」とは、警察官などを名乗り、あなたの口座が犯罪に使われていると告げて、資産を確認すると称してお金を移させる手口です。
つまり、「ニセ警察詐欺」はご本人自身に送金や預金の引き出しをさせる形の詐欺だという点です。
「うちの親に限って」と思っていても、手口は年々巧妙になります。注意を呼びかけるだけで防ぎ切るのは、現実には難しいのかもしれません。
そこで詐欺に対する防御方法としての、信託をについてご説明いたします。
■ なぜ家族信託が詐欺対策になるのか
ご本人名義の口座にまとまった預金があると、ご本人が自分の意思で窓口やATMからお金を動かせます。
当たり前のことですが、これが詐欺の被害を大きくします。
ご家族が銀行に「引き出しを止めてほしい」と頼んでも、ご本人の財産である以上、原則として止めることはできません。
家族信託で金銭を信託すると、そのお金は受託者名義の信託口口座に移ります。
管理する権限は受託者にあり、ご本人は原則として自分では引き出せません。
信託契約で定めた、生活に必要な分だけを受託者が定期的に渡す形にしておけば、ご本人の手元にある残高は常に必要な分のみです
怪しい電話がかかってきたとしても、その場ですぐ動かせる大金が手元にない。これが最大の防御になります。
不動産についても同じです。信託すると登記名義が受託者に移るため、ご本人だけでは売却も担保設定もできなくなります。
自宅を狙った勧誘や、不要なリフォーム契約、原野商法の二次被害といった場面での歯止めになります。
もっとも、信託で可能な詐欺対策にも限界があります。
■ 限界その1:年金は信託できない
年金の受給権は一身専属権とされ、譲り渡すことができません(国民年金法24条、厚生年金保険法41条1項本文)。
受取口座もご本人名義に限られるため、信託口口座を年金の振込先にすることはできません。
つまり、どれだけ信託を組んでも、年金が振り込まれる本人名義の口座は残ります。
そこからの被害までは、信託では防げないのです。
実運用では、振り込まれた年金を定期的に信託口口座へ移す、自動送金サービスをあらかじめ設定しておく、固定費の引き落としに充てるといった方法を組み合わせ、年金を受給する口座に残高を積み上げない工夫をします。
■ 限界その2:受託者側のリスク
受託者となったご家族が財産を私的に使ってしまう事例も、残念ながらないわけではありません。
信託監督人を置く、専門職が関与する形にするなど、受託者を一人にしない設計を検討してください。
これは、受託者自身が詐欺の標的になる可能性があるためでもあります。
■ 始められるのは元気なうちだけ
そしてもうひとつ。
信託は契約ですから、ご本人に契約を結ぶ判断能力があることが前提になります。
判断能力が低下してしまった後では、もう信託を組むことはできません。
詐欺への不安が現実味を帯びてくるのは、たいてい判断力に衰えが見え始めた頃です。
しかしその時期には、選べる手段が成年後見に絞られていることも少なくありません。
「まだ早い」と感じるくらいの時期に検討を始めていただいた方が、とり得る手段を選択することができます。
日吉司法書士事務所では、ご家族の財産を守る手段としての家族信託について、限界も含めてご説明したうえで設計をお手伝いしています。
遺言書作成、生前贈与、家族信託、成年後見、死後事務委任契約などの生前対策・終活から、不動産の名義変更(相続登記)、預貯金・株式・保険等の相続手続き、相続放棄などの相続発生後の手続きまで。
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